眠れない夜の為に-チープな午後3時-

眠りに落ちるまでのほんの僅かな時の、友として

嵐の夜の物語

第六夜


嵐の夜。

幼い頃父親が不在なことが多かった

決して不仲だった訳ではなくて
仕事の関係上、出掛けていることが
多かっただけなんだけどね

普段は家に居なかったけれど
それが子供として不満だとか
寂しいだなんて、思った事は無かった


達観してたのかな?


それが通常だと思ってたから
とくに気にならなかっただけだよ


それでも、こんな台風の夜や
真冬の木枯らし吹く日は何となく
心細い気持ちになった
あと、長男だったから少しだけ
しっかりしなきゃって、思ってた


嵐が来るという、夜

それはまだ、心細いという気持ちよりも
なにかイベントが起きる前みたいな
不思議な高揚感があったな


あの頃は直ぐに停電していたから
備えとして、ロウソクや懐中電灯を
準備するのは僕の役目だった




まだ全然風も弱いうちから
弟たちに懐中電灯の使い方を教えてみたり
今晩はみんな揃って同じ部屋に寝るから
というので、早々に布団を敷いてみたり
どことなくワクワクしていた



今考えると、母親は不安だった
だろうなと思うんだけど
そんな事は感じさせないくらいに
一生懸命だったから、ぼくらも
助け合わなきゃね
って思ってたんだ




次第に風が強くなって来て
窓ガラスに雨が打ち付けられる頃になると
少しずつ緊張感が漂い始める

そろそろじゃ無いかな



弟たちには怖がるから、敢えて言わずに
自分の心の中で呟く

南の空が何度も、何度もフラッシュライトを
焚いたみたいに光っていて、遠くでズーンという
地響きのような音もし始めている


近づいて来てるな




ひとしきり雨足が強くなってきた
雷雲がもうそこまで来ている


そういえばあの頃はまだうちにエアコンも無くて。
窓を閉め切った部屋の中で
よく熱中症にならなかったもんだよね
湿度100%みたいな嵐の夜だというのに




空が昼間のように明るく光ったかと思うと

バリバリバリ!

大地が砕けたかのような
恐ろしい音がして、そして停電になった





怖くって、親子四人
畳に敷いた布団の上で肩を寄せている

さっきまでのわくわく感なんてどっか行っちゃって
次々に光る稲光が怖くて怖くて、目が開けられない

でも、誰も泣いたりはしなかったのが不思議



怖すぎて声も上げられなかったのかもね



ぼくは懐中電灯を点けることを
やっと思い出して、スイッチを入れる



ひっ…!



硬直した弟の顔

ぼくの顔が懐中電灯に照らされて
不気味な表情になったので、驚いたらしい
それが面白くて、自分の顔を照らし合っては笑い転げる
次第にみんなに余裕が生まれて
漂っていた緊張感が解けていった



電気はしばらく点かないだろうから
もう、寝ようという事になった


「なにか、お話して」

弟がせがんでいる


子供の頃は毎晩、なにか物語を聞かせて貰ってから
眠るのが習慣になっていたのだけれど
なんとなく、眠れない夜には
決まって、ある物語をリクエストした


「まめとすみとわら~ のお話がいいな」

ぼくの好きなグリム童話

「わらと炭とそら豆」だ


藁と炭とそら豆が旅に出る
川があって渡れない
藁が横倒しになって橋の代わりを務め
炭が先に向こう岸に渡ろうとする
ところが中ほどで怖くなって立ち往生
そら豆が早く渡れとけしかけたから
炭は真っ赤になって怒り、藁は燃え
炭は川に落ちて、絶命。

その様子を見ていたそら豆は
大爆笑!
あんまり笑ったものだから、お腹が破裂する
瀕死の重傷のところ、仕立て屋が通りかかり
そら豆のお腹を黒糸で縫ってやる

だから、そら豆のお腹には黒い筋があるのさ

という感じの話だったと思うんだけどね


いや、決して安心して眠れるような
御話しじゃ、ないね?
これであってる? って気になって調べたけど
やっぱ、こういう話だよね

結構な、スプラッターというか
なんかグロじゃないか


母親は、この物語の最初の旅に出るシーンで

「まめとすみとわら~の三人は・・」

と、わざと豆と炭と藁のところを
早口で言うんだ
子供だからそれが何を表して言ってるのか
よく分かんないんだけど、ただその早口が
面白くて、兄弟でゲラゲラ笑ってしまう

本当のタイトルは
わらと炭とそら豆なのに
まめとすまとわら〜って言ってたのは
なんとなくその方が訳がわからなくて
面白そうだったから
なんだって。

物語の後半で、川に落ちて絶命した
藁と炭を見て、そら豆が大爆笑するシーン
今思うと酷いよなあ
って思うのに、子供って変なところが
ツボなんだよな

大笑いして、お腹が破裂しちゃうところを
母親は毎回、変えて話してくれた

「バーン!と大きな音を立てて」とか

「めりめりめりーっとお腹が破れて」

とか、いちいち大袈裟な表現をして
子供たちを笑わせていた



そうか
今気がついた

なんでこの話で安心して眠れたのか

きっとすごく平和な笑いが
そこにあったからだよ
弟たちが屈託なく笑い転げるのを
見て一緒に笑いあえた幸せな時代。


ぼくにとっての、原風景は
あの嵐の夜の物語だったかも知れないね



では、また。


蓮丹生くんでした