眠れない夜の為に-チープな 午後3時-

初めての関東暮らし、町歩き、出逢いを記録しておきたい

僕と音楽と出来事と(4) 青いスタスィオン(7-3)

3.もう逢えないかもしれない

僕とカナコはそんな関係だった
手を繋いだり、キスをしたりそんなことは
一度もなかったし、お互いを意識して
気まずくなるなんて事は全く無かった
火の無いところに煙は立たぬと言うけれど
本当に火は無かった
でも、ある時からカナコは弁当を作って
くれるようになったんだ


「弟のお弁当作るついでだから、余り物だよ」
と言いながら作って来てくれるので、自然と
昼ごはんを一緒に食べることになる
だから周囲は僕らの関係を少し疑っていたようだ

そっか…煙は立っていたんだな


中でも最も疑っていたのは悪友で、こいつは僕の
彼女とも面識があったから揶揄い半分、心配半分で

「レン、あの娘と二股掛けてるわけ?」

なんて訊いてくる

「違うよ、お前変なこと言うなよ」

「でもさ、普通その気もないのに
弁当なんて作ってやったりしないぜ?」

「あれは、余り物だって言ってたよ」

すると悪友はバカにしたような顔つきで

「あの弁当が余り物なわけがない」

と言い放った

「ウインナーなんて必要な数だけ
焼けばいいのに毎回なんで
余るほど焼いてるんだ?
考えてみろよ、おかしいだろう?」

確かに言われてみればそうだけど

「お前さ、なんで、人の弁当そんなに
観察してるんだよ」

いちいち弁当の中身まで突っ込んでくる
コイツが鬱陶しかった



周りの噂を裏付けるように、お昼休みも放課後も
文化祭の打ち合わせ、という事でカナコと過ごす
時間は日ごとに増えていたけれど、僕の中では
それはあくまでも同級生という距離感を
保ったままだった

そう僕は思っていた

でも、カナコはどうだったんだろう


茶店の件はカナコがどう教師に話したのか
原稿用紙3枚に反省文を書くだけで
ほかにお咎めは無かったけれど
サンドイッチ喫茶については許可が
降りず、敵情偵察は失敗に終わってしまった



そんなある日のこと、事件は起きた
恋人が僕の学校に遊びに来たんだ
僕になんの連絡もせず、学校を早退して
バスに乗って一人でやって来たのだ


もちろん携帯は無かったから
連絡手段としては手紙だったけれど
もしあったとしても、あの娘は連絡はして
来なかっただろう
そういう人だったのだ
文化祭、文化祭と言ってはデートの予定
を先送りにする僕を疑って自分の目で
確かめに来たのだ
普段は嫉妬するなんて素ぶり見せないのに
こうやって時々大きなイタズラみたいな
事を仕掛けてくる、そういうところが
僕は好きだったな


校内を隈なく見て回った僕の恋人は
たぶん、美術室の僕とカナコを見つけた


たぶんと言うのは、僕は直接恋人には
会っていないからだ
他校の女子生徒が来ていると聞きつけて
ピンと来た悪友が校内を探し回って
あれは絶対お前の彼女だったぜ
と知らせてくれたけれど、その時にはもう
恋人は帰った後だった



それから暫くして恋人から手紙が
届いたのだ

手紙には、簡単な別れの言葉と共に、
あの人と上手くやってねという感じの文言
で〆られていて、案の定、恋人は僕たちの
仲を誤解してしまっていた

僕は誤解を解こうと恋人に返信を
書いたが返事は無かった
返事はなかったけれど、それ以上僕は
後追いをしなかった
それはこの女の子と僕は恋人同士という
関係を長くは続けられない事が初めから
分かっていたからだ
恋愛関係とは形の違う関係
まだ若かった僕らはそれを言葉にする事が
上手く出来なくて、likeもLoveも同じように
捉えて付き合っていたけれど、違和感はお互い
感じていたと思う

いつかまた逢える

それはまた数年後の話しだけれど。


カナコには何となくフラれた事は話さずにいた
かっこ悪いと思ったし、それよりもいよいよ迫って
来た文化祭の準備に追われる毎日で
そんな話をする余裕も無かったし。


それに。


それにカナコのせいみたいに思わせて
しまう事で、二人の関係に変化が生じて
しまう事が怖かった
カナコに対しては恋愛感情は持ち合わせて
いなかったけれど、彼女と過ごす時間は
例えば淹れたてのコーヒーと
ナポリタンを炒める香りがフワッと漂う
茶店の前を偶然通りがかった時のような
小さな幸せだった
そんな、気兼ねない普段着の気楽さが心地良く
その居心地の良さを失うのが怖かったのだ

しかし、その時は突然訪れた

文化祭の前々日、
カナコは僕の前から姿を消した



つづく